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納棺師ってどんな人?
「納棺師(のうかんし)」は故人様に処置やお着替えなどを施し、しっかりと旅立ちの支度を整えお棺に納める者をいいます。
人の死はいつ訪れるか分からず突然やってきます。病院や介護施設などで※エンゼルケアを行うこともありますが、ご遺体の処置に関しては専門家ではありません。処置や旅の身支度を行わないままお棺に納められるというケースも多くあります。
※エンゼルケアとは死後の処置を施すことの全般をいいます。ということは納棺師もエンゼルケアを行うのですが業界ではあまり使用しない言葉になります。 |
いわゆる「ご遺体の処置」「旅立ちの身支度」「納棺の儀式」を専門に行い、またお客様のメンタル面もケアーするプロフェッショナルが納棺師です。
こちらでは納棺師の仕事内容や役割・費用について余談も含め詳しく解説していきます。
映画「おくりびと」をご存じですか?
2008年(平成20年)に全国で放映された「おくりびと」という有名な映画があります。本木雅弘さんや広末涼子さん・山崎努さんなど豪華キャストによる葬祭業の風景を描いた作品です。混同しがちなのですが「おくりびと」は葬儀屋さんではなく納棺師の仕事をテーマとした作品です。納棺の儀式の際に映画を見たお客様とは映画の話題になったりもします。
葬儀屋と納棺師はどう違う?
一般の方には少しややこしいかもしれませんが、
【葬儀屋】 葬儀社はお葬式全般を施行する業者です。ご遺体の引き取りからお通夜式・葬儀告別式までの一連を担当します。 |
【納棺師】 納棺師は納棺の儀式にのみ立ち会います。ご遺体の搬送や葬儀自体には立ち会いません。 |
葬儀社スタッフや看護師さん・介護福祉士さんなども処置を行うケースがありますが、その者たちを納棺師とは業界ではいわないです。
それぞれの業界でご遺体の処置技術が高い人たちもいますが、専業としているプロにはかなわないのです。私もご遺体の処置などを行うことがありますが、納棺師にはとうていかないません。
また、納棺師の業界では定期的にご遺体の処置や死化粧などの講習もあり、新人の境域はもちろんベテランであってもさらなる技術を磨こうと士気が高い者の集まりだともいえます。
納棺師の仕事内容や役割について
ご遺体を引き取り布団やベッドに安置し、一般的にはお通夜の前に納棺の儀式を行います。納棺形式にはいくつか種類があります。
- 清拭納棺(古式湯灌)
- 湯灌の儀式
- エンバーミング(遺体衛生保全)
それぞれ仕事内容や目的が違ったりします。
清拭納棺(古式湯灌)
ご遺体の身体を拭きあげ、お着替えや死化粧を行います。
湯灌納棺(ゆかんのうかん)
清拭(古式湯灌)とは過程が異なり、故人様の全身をシャワーで洗い清めます。
清拭納棺とはお作法が違い、専用の風呂桶にて身体をシャワーで洗わせて頂き、全身を清めてからご納棺します。湯灌の儀式は約1300年も前から行われていたともいわれており、その当時は自宅にお風呂場が無かったり、自宅で湯灌を行うことを禁じられていたということもあり、寺院などに設けられた湯灌場にて行われていたようです。死者の魂を浄化する・宗教儀式の中のお作法・身体の汚れを落とすなど、物理的や宗教上の理由から湯灌の儀式が生まれたとされています。
エンバーミング(遺体衛生保全)
エンバーミングは処置の方法であり、より特別な処置を行うことをいいます。
具体的な仕事内容や役割をご紹介
清拭について
ご遺体の全身をお湯や消毒液などが含まれた液体で拭き清めます。足の先から指先、お顔全体の汚れを取り除きます。
湯灌について
バスタブを葬儀会館や自宅に搬入し、シャワーで故人を洗い清めます。洗体シャンプーやリンスを施し、綺麗さっぱりしてから旅立ちをしてもらいます。湯灌の「灌」という漢字は仏教用語でも出て来たりし、本来は煩悩などを洗い流し、いい所に生まれ変われるようにと願いを込めた古くからの儀式でもあります。
仏教宗派によっては「灌頂(かんじょう)」という儀式があり、仏様になったことを証明するため・祝うために頭に水を灌ぐという儀式があったりします。
真言宗で有名な高野山において毎年5月と10月に「結縁灌頂(けちえんかんじょう)」と呼ばれる儀式もあり、そこでは水を灌がれませんが、仏様との縁を結ぶという儀式が行われていたりします。
そのことから本来湯灌はお風呂に入る、シャワーを浴びるという気軽なものではなく、仏教においては重要な儀式からきていることが分かります。
死化粧やご遺体の処置について
身体を清めたあと、綿花などを使用し綿つめを施します。ご遺体からは体液が漏出しますのでしっかりと処置を行い、死化粧・髭剃り・整髪・爪切りを行います。化粧は男性に対しシンプルに、女性に対しては生前のイメージに合わせて施します。化粧品は納棺師持参のものを使用するのですが、お気に入りの化粧品があればお客様が持参していただき、そちらで行うことも多くあります。
お召し替え
故人様のお着替えをしますが、一般的には仏衣と呼ばれる白装束を着せることが多いです。しかし、昨今では故人様のイメージに合う私服や着物・背広などを着せるケースも増えており、気に入っていた衣服があればそちらにお召し替えします。
納棺の儀式
いよいよ故人をお棺の中に納めます。お棺にはさまざまな種類があり、葬儀社によって準備しているものが違います。副葬品を納め、三途の川の渡し賃といわれる六文銭(ろくもんせん)を納めるケースも多いです。
納棺師の仕事内容はお通夜に処置や死化粧・お召替えなどを行う重要な役割であることが分かります。ほとんどの葬儀社では追加費用でありオプション扱いになります。 |
エンバーミングは全く異なる処置です
エンバーミングは通常の処置や死化粧とは異なる施術をさします。簡単にいえなご遺体の復元・防腐・保存を行うための処置です。海外ではエンバーマーと呼ばれエンバーミングが必須の国もあり、資格がないと葬儀屋や納棺師に就けない場合もあったりします。
通常の処置とは何が違うのか?
ご遺体の体液や血液を抜き取り、防腐剤を注入し保存期間をより長く保つための処置や、著しくご遺体の状態がよくないケースではできるだけの復元をします。葬儀会館や自宅で行うことは難しく専用の施設で処置をすることが一般的です。
エンバーミングはどんなときに行うのか?
例えば火葬場が埋まっていてしばらく待たないといけない場合、芸能人や著名人の葬儀において亡くなってすぐにお葬式を行えない場合など日本においてはそこまでの需要はありません。しかし海外で日本人が亡くなった場合は手続きや搬送に時間がかかるためエンバーミングは必須です。エンバーミング処置をされて日本へと搬送されてきます。
昨今では芸能人や著名人が亡くなっても葬儀は親類のみで行い、後日お別れ会などを行う予定という流れが主流であり、ご遺体を長く保存しておこうという考えが少ないからです。
インターネットで調べる限り「マリリン・モンロー」「ケネディ大統領」「マイケル・ジャクソン」など海外の情報は出てきますが、日本国内の情報は出てきません。
逆さ水の儀式について
湯灌の儀式において「逆さ水(さかさみず)」という儀式があります。普通であれば熱いお湯に水を入れて温度を調整しますが、逆さ水は冷たい水をタライなどに入れお湯で温度調節をします。
そして「左柄杓(ひだりびしゃく)」と言って、利き手と逆の手で柄杓を持って手の甲側に逆手に返しながら足元から胸元までかけるという儀式もあります。
この世とあの世を分け隔てるため逆の方法で行う儀式・風習になり「逆さごと(さかさごと)」といわれ、現在でも多く残っている風習になります。
都心部では時代の流れとともに昔ながらの風習が消えつつありますが、完全になくすのではなくある程度は風習を重んじた形式で納棺の儀式を行います。
納棺師に依頼する費用はどれくらい?
葬儀社によって費用は違います。
清拭納棺 | 3万円~6万円程度 |
湯灌納棺 | 7万円~10万円程度 |
エンバーミング | 30万円~ |
葬儀社によって費用に幅がありますので、気になる方はお決まりの葬儀社に要相談です。
どんな人にオススメ?
清拭納棺 |
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湯灌納棺 |
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エンバーミング |
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清拭納棺・湯灌納棺の流れ
ご自宅や会館に納棺師がお伺いさせて頂き、お着替えやご処置などの説明を致します。所要時間は清拭納棺で1時間程度、湯灌納棺で1時間半程度かかります。
故人様のお身体の状態などを確認し、ご処置に移ります。
清拭納棺のサービス内容
お化粧(顔回り・お身体) | お顔剃り(髭剃り) |
お手足の清拭 | 詰め物などの処置 |
調髪・生え際の毛染め | 爪切り・ネイル |
ご希望の服装へお着替え | 体液の吸引 |
湯灌納棺のサービス内容
逆さ水の儀式・ご洗体 |
シャンプーで髪を洗いリンスで整えます |
洗顔を行い、お化粧を施します |
清拭納棺でのサービス |
携帯型の浴槽をご自宅や会館にお持ちさせて頂きます。小スペースでもご利用頂けますので、ご安心下さいませ。
白の仏衣やお着物、愛用の洋服、スーツなどにお着替えをさせて頂きます。
身支度が整いましたら、ディスポーサブル(使い切り)の化粧品でお化粧を行います。
旅支度が整いましたら、お棺へとお移しさせて頂くご納棺の儀式となります。その際、お柩へと入れて頂くお品がございましたら納めて頂き、ご納棺の儀式終了となります。納棺終了後も、お柩のふたに釘打ちなど一切いたしませんので、故人様とのお別れをゆっくりとお過ごし頂けます。
新型コロナウィルス感染症の納棺
2020年(令和3年)に日本で初めてコロナウィルスの感染者が確認され、葬儀業界にも大きく影響が出ました。コロナ患者のご遺体では搬送・納棺の儀式・葬儀費用などの高騰があり、場合によっては火葬をした後に※骨葬を行うケースも多く見受けられました。
※骨葬とは、ご遺体を安置した状態の葬儀ではなく、火葬後に遺骨を安置し葬儀を行う形式です。 |
しかし現在ではコロナも落ち着いており、ご遺体からの感染率も非常に低いことから通常料金・通常の形式で行うことが多くなっています。
納棺師の依頼費用もコロナ価格というのはあまり見かけません。
納棺師の仕事内容・役割のまとめ
こちらではご遺体の処置の専門家「納棺師」の仕事内容や役割、費用についてご紹介いたしました。納棺師は葬儀全般を担当する葬儀社とは違い、ご遺体の処置専門に行っている専門家だということがお分かりいただけたかと存じます。
病院や介護施設でも丁寧にエンゼルケアをしてくれますが、納棺師の技術はやはり凄く尊敬できます。費用については葬儀社によりさまざまですが、人生で初めてであり最後の旅立ちです。
お客様の心のケアーも踏まえた技術は非常によくオススメだといえます。
【記事監修】厚生労働省認定 一級葬祭ディレクター/中原優仁 |