【記事監修】厚生労働省認定 一級葬祭ディレクター/中原優仁 |
目次
自殺・自死された方のお葬式
人が亡くなる原因は病死や老衰だけではありません。毎年自ら命を絶っている人たちが多くいらっしゃるのが現実です。
こちらの記事ではショッキングな表現が含まれています。
読んでいて辛くなってしまう可能性もありますので、理解した上でこちらの記事をお読みください。
自殺と自死の違いとは?
自ら命を絶たれることを「自殺(じさつ)」といいますが、昨今では公文書などで「自死(じし)」と言い換えている自治体が多いと聞きます。
「自殺」という文字には犯罪を想起させるものがあり、亡くなった人に対しても、また遺族に対しても偏見や差別を助長すると、遺族を中心に「自死」に言い換えて欲しいという声があります。自死遺族、自死遺児など遺族に関連した表現(つまり二人称の死を表す時)では広く使われるようになり、かなり定着してきました。
引用元URL:全国自死遺族総合支援センター〈グリーフサポートリンク〉
「自殺」を「自死」に言い換えては、という議論があります。2013年3月に島根県が県の「自殺対策総合計画」における表現をすべて「自死」に統一しました。評価する声がある一方で、十分な議論がないままに言い換えが進むことに危機感を持つ人が多いことも事実です。
引用元URL:全国自死遺族総合支援センター〈グリーフサポートリンク〉
とあり「自殺」という言葉は犯罪をイメージさせショッキングであり人々に悲しみを与える言葉であるため、自殺という言葉よりも控えめであり故人と遺族を尊重するというおもいを込めて「自死」に言い換えようという動きだと解釈しています。
しかしながらすべてに対して「自死」という言葉に変えてしまうのはどうか?という声もあるということです。
私の持論となりますが、
- イジメによって自ら命を絶った。
- 仕事の過労によって。
- 精神的な病気。
など原因はさまざまですが、遺族にとっては「自ら命を絶った」と感じる場合もあれば「殺された」と感じる場合もありますので、場合によっては「自殺」と表現した方が加害者がいる場合には伝わりやすいということだと感じています。
自殺者の男女別・総人数やについて
警察庁のホームページに自ら命を絶たれた方の年度ごとの人数や男女別の統計などが掲載されています。
年度 | 男性の人数 | 女性の人数 | 総数 |
令和 6年 | 未定 | 未定 | 未定 |
令和 5年 | 14,862人 | 6,975人 | 21,837人 |
令和 4年 | 14,764人 | 7,135人 | 21,811人 |
令和 3年 | 13,939人 | 7,068人 | 21,007人 |
令和 2年 | 14,055人 | 7,026人 | 21,081人 |
令和 元年 | 14,078人 | 6,091人 | 20,169人 |
平成10 ~平成24年 | 2万人前後 | 1万人前後 | 3万人以上 |
警察庁のデータを見ると平成10年から14年連続で3万人を超える自殺者が出ており、そこから現在(令和)では徐々に減少傾向にあり、ピーク時の34,427人(平成15年)に比べると大幅に減少していることが分かりますが、それでも毎年2万人以上の自殺者が出ているのが現状であったりします。
そして男女別で見てみると60%~70%を男性が占めていることがわかります。
国際的に見ても男女比は男性の割合が圧倒的に高く、自殺率の総数では世界でも有数の上位国に日本がランクインしています。
自殺・自死の原因について
これだ多くの方が自ら命を絶たれており、その人数と同じ件数の葬儀が行われているのが現実です。
しかし、病気や老衰で亡くなる方とは違い、非常にデリケートな対応をしなくてはなりません。
病死や自然死の方の葬儀の対応が「適当」「デリケートではない」という意味ではありません。
自ら命を絶たれる方にはさまざまな悩み・要因があり、当事者では無いと分からなかったり他人が理解できないものでさえ原因となったりしています。
厚生労働省の自殺の原因・動機の年次推移を見てみると、健康問題が圧倒的に多いことがわかります。
※画像は厚生労働省より引用。
その中でも、
健康問題
「健康問題」を原因・動機とする自殺者数の内訳としては、「病気の悩み・影響(うつ病)」が最も多く、「病気の悩み(身体の病気)」がこれに次ぎ、平成27年においては両者で健康問題全体の約4分の3を占めている引用元URL(現在はリンク切れ):厚生労働省
- 身体の病気の悩み
- さまざまな要因で発症する鬱病
となり、上図のどの要因も「心の病」へと発展し自殺行為となっています。
中には亡くなられた方のご親戚や友人・知人などが何も考えずに
自殺させるなんてどんな教育をしてたんだ・・・
お前のせいでこんな目に・・・
というお考えの方も多数いらっしゃり、
心の病なんて根性が無い!!
と頭ごなしに発言される方もいらっしゃいます「悪魔に憑りつかれてしまって・・・」と表現する方もいますが、自殺の原因と言うのは時代と共に研究が進み昔に比べ解明されております。
精神論をとなえる方が多かったりするのですが、鬱病は目に見えない病気なので絶対に辞めておくべきだといえます。遺族は確実に傷つきます。
精神的な病を理解していないとお客様との打ち合わせの際に触れてはいけない部分にも触れてしまう可能性もありますので「心の病」についてはどの葬儀社スタッフもある程度は勉強しているといえます。
自殺したということは誰にでも知られてしまうのか?
葬儀社・医師・警察は確実に分かります。そして役所の住民課の担当者は火葬許可証を発行する際にチェックしますので分かってしまう可能性が高いです。
葬儀社はご遺体を搬送する際、死亡診断書をお客様から預かります。
そして、打ち合わせの際に左側の死亡届に必要事項を記入していただくのですが、説明をしながら記入していただくことが多く右側の死体検案書が見えてしまいます。
病死や自然死(老衰)の場合は死亡診断書にチェックされていますが、警察による検視(検死)が行われると「死体検案書」にチェックが入ります。
死体検案書にチェックが入っているだけでは自殺かどうかは分かりません。自宅での病死や自然死においても在宅医療などを受けていない場合は検視が入ることが多いからです。
検視には半日から数日程度、解剖が必要となると大きい病院へと搬送となり数週間~数か月かかる可能性があります。
しかし、検案書には警察医による死因や死にいたる原因などが記入されており、そちらが目に入ると葬儀社も死因が分かってしまいます。
それぞれの地域や警察医によって死因の書き方はそれぞれですが、このように記述されています。
死体検案書の記述礼 | |
首吊り自殺 | 自宅敷地内のガレージ内にて私物のロープを使用し頸部圧迫(窒息死)縊死を図る。 |
飛び降り自殺 |
|
溺死 | 〇〇湾(池・湖)にて入水(じゅすい)、窒息死。 |
などの死因や死に至る直接的な原因が詳しく書かれています。
葬儀社スタッフはどうしても感染症予防対策として死亡診断書を確認することが大切であり、昨今よりの新型コロナウィルス感染症の影響により、以前より診断書の確認の徹底を行っている葬儀社も多いと思います。
中には死因によっては従業員が怯むからスタッフには隠している会社も存在することに驚きます。
特に病死において「肝炎」「HIV」「ノロウィルス」など感染すると人の生死に関わる病気もありますから、当然感染症予防対策も必要になってまいりますので、葬儀社スタッフによる診断書の確認はご理解をいただければと存じます。
葬儀社に対しては病死や自然死・自死関係なく心を込めてお葬式を施行することが仕事となりますので恥じる必要も隠す必要もありません。自ら命を絶たれた方の葬儀は珍しくないので慣れています。
葬儀社に対してもあまり詳しく見られたくないという場合は、喪主様もしくは届出人が自身で死亡届に記入し役所に火葬の手続きを行っても問題ありません。皆様が思っているより手続きは簡単であり短時間で行えます。
心配なのは葬儀社から第三者に情報が洩れる可能性があるのではないか?ということだと思います。
昨今では「個人情報保護法」が徹底されており、葬儀社も電話で問い合わせがあり死因などを聞かれても教えたりはいたしません。
私も当然ですが病死・自然死・自殺であろうが「分かりかねます・存じ上げておりません」と伝えます。
「葬儀屋なのにそんなことも分からないのか!?」と自分勝手で理不尽なことを言われたとしても「個人情報保護法がございますのでお伝えできません」とはっきり伝えます。
また、役所(役場)で死亡届を受理し火葬の手続きを行ってくれる職員の方も書類の確認の上で分かってしまうことがほとんどになり、担当の警察官や警察医などは当然知っています。
しかし、遺族から第三者に伝えなければ基本的に周りの親戚や知人・友人に自殺だと知られることはありません。
もしかすると生前の故人様を良くご存じでピンとくる方も中にはいらっしゃるかと思いますが。
死因を周りに言っていないのに漏れているケースがあるとすれば、葬儀社・市の職員・警察官のいずれかから漏れているといえます。
ご遺体の見た目で自殺だと分かる?
葬儀社スタッフは検案書を見なくても首吊り自殺であれば首にロープや紐などの傷跡がくっきりと残っていますのですぐに分かります。
しかし、飛び降り自殺や入水では検案書を見ないと特定できません。理由は事故による落下や溺死の可能性もあるからです。
縊死の場合、偶然に偶然が重なって首にひもが絡みつき窒息死という可能性も0ではありませんが、ほとんどの場合は自死だといえます。
一般の方は見た目で自殺だとわかる?
一般の参列者であれば分からないケースが多いと言えます。縊死であればお葬式の前の処置で首をメイクや綿花で隠します。お棺の中に納める際も首元が見えないように処置しますので見た目では分かりません。
自殺だと伝えなくても基本的に葬儀社が外傷などを隠してくれます。納棺師を手配しての処置や湯灌を行うケースが多いため費用は多少かかる可能性があります。
自殺者の葬儀はどんなお葬式?
極力誰にも知られず、ひっそりと密葬を行うというイメージがありますよね。または直葬か親類のみの家族葬なのか?
結論から言うと、
- ひっそりと行う
- 普通に行う
- 自殺を隠しながら普通に行う
という3パターンです。
そして自死ということを本来であれば周りに知らせた方がいいのか?気になると思います。
1.ひっそりと葬儀を行う
- 自殺という事を誰にも知られたくない
- 後々落ち着いてから周りに伝えたい
というケースでは直葬・密葬という形式でのお葬式もしくは、家族のみでの家族葬という形式が多いです。
お葬式は遺族の気持ちの整理が付かないまま行わないといけません。
自殺の場合、ご遺体の状態が良くないことも多く日にちを伸ばすということも難しいケースも多くなります。
お葬式が終わってからその旨を伝える方が多く、ずっと伝えないという方もいらっしゃいます。
2.普通にお葬式を行う
周りの親戚や知人・友人にその旨を伝えて葬儀を行うケースもあります。
家族・その他の親戚のみのお葬式もあれば、知人や友人・会社関係の方が参列される一般葬で行われることもあります。
周りの方も生前の故人様をよく存じており、理解した上での参列という方が多いです。
3.死因を隠して普通に葬儀を行う
自殺だということを絶対に知られたくないという方で、直葬や密葬を行うと周りに感づかれるという心配もあり通常通り通夜式・葬儀告別式・初七日法要までのお葬式や家族葬を行う方もいらっしゃいます。
しかし時間が経ち周りに打ち明ける方も多くいらっしゃいます。
自ら命を絶ったということを他人に伝えるべきか?
遺族によって事情はさまざまとなりますので、必ず周りに伝えなければならないということは絶対にありませんが、同居の家族や別居であっても近親者(兄弟や両親・子供)などには伝えておいた方がよいといえます。
後々「何でそんな大切なことを教えてくれなかったんだ!?」など、家族間のトラブルになる可能性が大きいです。
少し離れた親戚や知人・友人に対し、
隠すことは良く無いことは分かっているけど言いづらい・・・
という場合、お葬式が終わりある程度気持ちの整理が付いてからでも遅くはありません。
※どこまでの方にその旨をすぐに伝えるべきかは生前の関係性など親しみによって違います。
自死だと知られずに葬儀を行うことも可能ですが、自殺だということを
- すぐに伝えるべきか
- 後々に伝えても問題無さそうか
- 隠し通すべきか
などを、家族と良く話し合って結論を出しましょう。
家族や親類の中に打ち明けれる方がいるのならば、決して自分一人の判断で決めないでおくことがよいといえます。
特に若い方の自死は親御さんも取り乱しているケースも多く、伝えるべきかなど考える余地もありませんから、そういった場合は周りの方がサポートしてあげましょう。
本来喪主となる方が取り乱しているとなると、喪主を行う事が困難になりますので形だけ喪主様となってもらい、決めごとをある程度周りの方が判断してあげるということがよいといえます。
参列する側はどうすればいい?
自殺・自死だと全く知らないケースもあると思います。
自死でありながら第三者(一般者)の耳にお葬式の日時や情報が入ってくるということは、遺族は特に隠していない・もしくは隠しながらお葬式を行うということが多いので参列は自由にされても問題ありません。
この場合は参列者が自死した方のお葬式という意識すら無いと思われます。
昨今では自死に関わらず家族葬の増加や新型コロナウィルス感染症の影響により、一般の参列者を辞退しているケースもありますので遺族に参列してもよいかを確認することがベストです。
自死だと知らず、遺族が参列を辞退していることも知らなくて葬儀の情報が耳に入り、参列をしてしまう可能性も0ではありません。
この場合は仕方が無いといえますので、後々気にすることはありません。
逆に自殺や自死であるという情報を耳にし分かっている場合では、遺族が一般の参列者を辞退していない限り参列の意思があれば参列しても全く問題はありません。
もし遺族が参列者を限定しており、その他の参列者を辞退している場合では葬儀社に問い合わせると参列可能か不可か教えてくれます。
参列する場合の香典はどうすればいい?
家族葬では香奠を辞退しているケースが非常に多く、用意していても遺族が受け取ってくれないケースが多いです。
もし香典を受け付けている場合は一般的なお作法・相場の金額で問題ありません。
故人様との拝顔はできる?
遺族が拝顔を許可しているケースではお顔を見ることができます。
逆に家族や親戚以外に見て欲しくないという場合では、一般参列者の拝顔はお断りをしています。
しかし、死因によってはお顔の状態があまりよろしくなく、納棺師でも修復が難しい場合ではお顔のあたりに写真を飾るケースがあり、直接の拝顔が適わないこともあります。
遺族にお悔やみの言葉をどうかける?
自死だと分かっており、遺族が落ち込んでいるもしくは遺族からいつもの感じ(明るい雰囲気)で声を掛けられない限りは、余計な言葉を発さずに会釈のみを行い速やかに退席することが望ましいです。
雰囲気だけで気持ちを読み取るということは非常に難しいので、もし遺族から「ご参列ありがとうございました」などの声があった場合は「心からお悔やみを申し上げます。お疲れの出ませんように。」など手短なお悔やみの言葉にしておきましょう。
葬儀の流れについて
警察署の霊安室にお迎え
お客様が検案書の受け取り・検案費用の支払い(3万円~10万円程度)
安置場所への搬送(自宅や葬儀会館など)
ご遺体の処置を行います。納体袋という袋に裸の状態で納められており、必要であれば湯灌(ゆかん)の処置を行ったりします。
お葬式の日時や形式を決める打ち合わせを行います。
通夜式・葬儀告別式
収骨(お骨上げ)
お葬式の流れは自死・病死・自然死いずれも変わりありませんが、ご遺体の特別な処置が必要になるケースが多いです。
そういった場合納棺師を手配し処置を行う葬儀社がほとんどになります。
ご遺体の状態が良くなくても、納棺師の処置により拝顔が可能にまで修復ができることも多くあったりします。
お葬式はいつ行う?
自死の葬儀だから早く行う・先延ばしにするということはありません。
火葬場の予約状況を見て日時を決定します。
ご遺体の状況によっては最短の日取りで行うことをおすすめするケースもあります。
葬儀後について
葬儀後の手続きにおいても同じになります。
保険や年金の手続き、各種名義変更や除籍など行わなければなりません。
また故人様が生前に「国民健康保険」に加入していた場合、葬儀後に市役所の健康保険課などにて手続きを行うと「葬祭費」として喪主様(葬儀執行者)に5万円程度支給されます。条件を満たせば喪主様以外の方でも申請を行えます。
自殺・自死された方の葬儀まとめ
こちらでは自殺・自死にて命を絶たれた方の葬儀についてご紹介させていただきました。
遺族の方はさまざまな心境であり、心身共にお辛いかと存じますが葬儀社には隠さずに伝え、お葬式の内容をどうしたいかということを伝えれば全力でアドバイス・サポートを親身になって行ってくれます。
そして周りに言いずらいケースもあるかと存じますが、一人で悩まず打ち明けれる方や故人のことを良くご存じな方が周りにいらっしゃればその旨を伝え、どういうお葬式にしたらいいのかの相談を行うとよいといえます。
また、一緒同行してもらい葬儀社とお葬式の打ち合わせを行うのも一つの方法だといえます。